抄録
【目的】水晶体の透明性は、水晶体を構成するタンパク質間の相互作用により維持されている。しかし、酸化ストレスによりタンパク質に酸化、ラセミ化、AGE化などの翻訳後修飾が起こると、相互作用に変化が生じ、透明性を維持できなくなる。水晶体の主要タンパク質であるα-クリスタリンは、分子量2万のαA-クリスタリン(αA)とαB-クリスタリン(αB)が弱い相互作用によって30-40量体の高次会合体を形成し他のタンパク質の凝集を抑え、水晶体の透明性を維持している。しかし、αAとαBの相互作用に関する物理化学的な研究は不十分である。そこで我々はαAとαBの相互作用及び、これらのサンプルへの酸化的影響を解明するために、γ線照射により酸化クリスタリンを生成し、未照射のクリスタリンとの相互作用の違いをリアルタイム測定できる表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて測定し、解析を行った。
【方法】ヒトαAおよびαBは大腸菌を用いて発現させた。精製した各クリスタリン1 mg/ml にγ線(60Co)を0, 100, 500 Gy照射した。SPR分析はbiacora T100を用いて行った。相互作用を検討するタンパク質のうち、チップに固定化するタンパク質をリガンド、リガンドに対して結合を検討するタンパク質をアナライトと定義する。本実験ではリガンドに未照射のαAおよびαBを、アナライトには未照射と照射したαAとαBを用いて測定を行った。
【結果】リガンドとアナライトをαA (AA)、リガンドをαA、アナライトをαB(AB)、リガンドをαB、アナライトをαA(BA)、リガンドとアナライトをαB(BB)と表記する。未照射のクリスタリン間の解離の速さはAA≈BA>AB≈BBであった。しかしγ線照射したクリスタリンでは、すべてのクリスタリン間の解離が未照射よりも速かった。また解離の速さはBB>AB≈BA>AAの順となり、AA、BBの解離の速さが逆転した。これらの結果から、αBは通常は安定な会合体を形成しているが、ガンマ線照射すると解離が速くなることから酸化ストレスに対し弱いことが示唆された。逆にαAは通常はαBより弱い相互作用をしているが、酸化ストレスにはαBより強いことが示唆された。