抄録
目的:長崎原爆被爆者の体内残留放射能を検出し、放射線が人体に及ぼす内部被曝の影響を病理学的に検討する。その一環として、我々は長崎原爆急性被爆者剖検例のホルマリン固定臓器とパラフィンブロック及び対照としてトロトラスト患者の肝臓標本とブロックを用いて内部被曝の検出法について検討している。今までに、1)ホールボディーカウンター(γ線spectrum NaI (T1) シンチレーター、400チャンネル波高分析器)ではトロトラスト患者の肝臓パラフィンブロックではAc-228(260eV)でピークを認めたが、原爆急性被爆者では検出不可能、2)オートラジオグラフィー法露光3週間では、トロトラスト患者肝臓標本でトロトラストgrainから出るα線の飛跡が確認できた。一方、原爆急性被爆症例での確認は出来なかったことを報告している。今回、さらに原爆急性被爆症例数を増やし、非被爆者症例についても組織切片を用いて残留放射能の検討を行った。試料と方法:1)長崎原爆被爆者として急性被爆7症例、2)内部被爆の例としてトロトラスト症患者1症例、3)非被爆者として、国立長崎医療センター保管ブロック4症例、九州大学病理保管ブロック3症例を用いて、骨、骨髄、肺、肝臓、腎臓等についてオートラジオグラフィー法を行い検討した。結果:長崎原爆急性被爆症例では、肺、腎、骨等の組織標本についてα線の飛跡様のものが認められた。尚、これと同様のものは、今回用いた非被曝症例の組織標本内でも認められたが、その数はやや少ない傾向であった。今後、放射線核種の同定をし、残留放射能の可能性を確認する。