抄録
原爆投下後60年以上が経過しても原爆被爆者における肺がんの過剰相対リスクはいまだに高い。放射線被曝が肺発がんに及ぼす影響を検討するため、我々は始めに、非小細胞肺がんの原爆放射線被曝者20人および非被曝者18人のp53 (エクソン5-8) とEGFR (エクソン18, 19, 21) 遺伝子の変異を解析し、その変異と放射線被曝との関連を調べた。放射線被曝者20人中11人 (55%)、 そして非被曝者18人中6人 (33%) にp53遺伝子変異が認められた。次に我々は、扁平上皮がんと腺がんにおいてp53遺伝子変異を別々に解析した。扁平上皮がんでは、放射線被曝者6人中5人 (83%)、非被曝者5人中2人 (40%)、そして、腺がんでは、放射線被曝者12人中5人 (42%)、非被曝者12人中3人 (25%) にp53遺伝子変異が認められた。GC>TAトランスバージョン型のp53遺伝子変異を有する患者の被曝線量中央値はその他の変異を有する患者あるいは変異を持たない患者に比べ高かった。一方、被曝者腺がん12例中2例でEGFRの変異がみつかり、その頻度は予想されるものよりも低かった。症例数を増やした更なる研究が必要であるが、これらの結果は組織型特異的に特定の遺伝子変異 (例えばp53) とその変異型の頻度が放射線被曝と関連する可能性が示唆された。