日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第51回大会
セッションID: W2-1
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DNA損傷チェックポイントの真の生物学的意義とは
DNA損傷チェックポイントの生物学的意義
*山内 基弘鈴木 啓司山下 俊一
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抄録

放射線照射後誘導されるDNA損傷チェックポイントは、照射後DNA二重鎖切断ができた細胞全てにおいて誘導され、切断が再結合されれば解除されると考えられてきた。しかし我々は最近の研究から、G1アレストを起こす細胞の割合は線量依存的であり、1 Gy X線照射後では約40%のG1照射細胞でG1アレストが起こらないという結果を得た。この結果は照射直後にできたDNA二重鎖切断そのものがチェックポイントを誘導しているわけではないことを示唆する。そこで本研究では「G1チェックポイントの真の生物学的意義は損傷修復の時間稼ぎではなく、DNA二重鎖切断由来の何らかのクロマチン構造異常が残存した細胞の増殖を抑制することにある」という仮説を立て、それを証明することを目的とした。我々はこれまでに、照射直後から形成されるSer1981リン酸化ATMフォーカスは時間経過とともに減少するものの、残存フォーカスはそのサイズが増大、すなわち成長し、そのフォーカスの成長はチェックポイントシグナルを増幅し、G1アレストを誘導することを明らかにした。そこで成長したフォーカスが示すクロマチン構造異常を染色体レベルで明らかにするため、フォーカスの成長およびG1チェックポイントを阻害した場合としなかった場合に、M期に出てくる染色体異常の頻度およびスペクトルにどのような違いがあるかを検討した。その結果、Dicentric with fragmentおよびChromosome fragmentの頻度に顕著な差が見られた。以上の結果から、リン酸化ATMフォーカスを成長させてG1チェックポイントを誘導するのはDNA二重鎖切断が誤って再結合された部位、あるいは再結合されなかった部位であり、これらのクロマチン構造異常を持つ細胞の増殖を抑制するのがG1チェックポイントの生物学的意義であることが示唆された。

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© 2008 日本放射線影響学会
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