抄録
DNA損傷チェックポイントの生物学的意義は、これまで一般的にDNA損傷修復の時間稼ぎであると考えられてきた。しかしながら、これまでの放射線生物学で得られた知見を総合して考えると、この有名なパラダイムに対して疑念を抱かざるを得ない。その第一の根拠としては、DNA損傷チェックポイントが誘導されないAT細胞におけるDNA二重鎖切断の初期(X線照射後2時間以内)の修復動態は正常ヒト細胞と差がなく、最終的に約90%は再結合されることである(Kühne, et al., Cancer Res. 64, 500-508, 2004)。第二の根拠としては、G0/G1期に生じたDNA二重鎖切断はX線照射後2時間以内に70-80%は再結合されるのに対し、G1チェックポイントが誘導されるのはそれよりもはるかに遅く、最低でも照射後6-8時間を要することである (Riballo, et al., Mol. Cell 16, 715-724, 2004; Kastan, et al., Cancer Res. 51, 6304-6311, 1991; Di Leonardo, et al., Genes Dev. 8, 2540-2551, 1994)。演者の先生方には、「DNA損傷チェックポイントはDNA損傷修復のための時間稼ぎである」という説に対して、支持あるいは不支持の立場をとっていただき、その根拠となるデータをお示ししていただきながらお話しいただきたいと考えている