抄録
放射線や放射性核種がヒト以外の生物に及ぼす影響に関心が持たれつつある。国際放射線防護委員会(ICRP)は、ヒト以外の生物相に放射線が及ぼす影響に関する研究の重要性を示唆している。これらの生物相への影響を明確にするには、問題となる放射性核種による内部被ばく線量を評価することが必要であるが、ヒト以外の生物への取り込みや代謝に関する知見は多くない。ミミズは土壌中で最も代表的な生物種であるが、放射性核種のミミズへの取り込みや代謝に関する報告はほとんどない。
そこで本研究では、ヒト以外の生物としてシマミミズ(Eisenia fetida)に着目し、OECD/NEA (Test No. 207, Earthworm, Acute Toxicity Tests, 1984) による毒性試験法を参考に、放射性核種のシマミミズへの経皮吸収の程度を評価する手法の開発を目的とした。具体的には、直径36mmの円筒管内にろ紙を内張りし、このろ紙に放射性核種109Cd、134Cs、60Co溶液(pH 7)を所定量添加した後、温度20ºC、湿度100%で3日間シマミミズを飼育した。シマミミズは経時的に取り出し、純水で洗浄しペーパータオルでブロティングすることによりシマミミズ表面に付着している核種を取り除いた後、高純度Ge半導体検出器で測定した。
その結果、ろ紙を用いた毒性試験法によって3日間程度の経皮吸収率を測定することが可能であることが判った。全核種とも吸収率は経時的に増加した。特に134Csの吸収率は他の核種より大きく、109Cd、60Coの3日後の吸収率は約5%であったのに比して、10%程度を示した。また、134Csの吸収率は時間とともに一定になる傾向が見られたが、109Cd、60Coの吸収率は直線的に増加していた。なお、シマミミズの表面を洗浄した水およびペーパータオルの放射能を測定したところ、シマミミズ体内で検出された量の数%が検出された。本研究から今回開発した試験法によって、比較的簡便に放射性核種の取り込みの程度を評価することが可能であることが示唆され、核種によって生育媒体からシマミミズへの取り込まれる割合が異なることが判った。