抄録
電離放射線によって生じる二本鎖DNA切断(DSBs)は、非相同末端結合(Non-homologous end joining: NHEJ)や相同組換え(Homologous recombination: HR)によって修復される。電離放射線によって形成されるDSBsの切断面は複雑な構造になっており、DNAリガーゼによる結合は容易ではない。以前、我々は制限酵素I-SceI認識配列の挿入を用いたDSBsの修復機構について報告したが、このDSBsは電離放射線によって生じる様な複雑な切断面のモデルとしては適さないと考えられる。そこで、本研究では電離放射線によって生じる様な複雑な切断面を持つDSBsの修復機構を解明するために、TK遺伝子のexon 5 を挟む形でI-SceI認識配列を逆向きに挿入(un-connectable I-SceI site)した細胞(TSCE206)を作製した。TSCE206にI-SceI発現ベクターを導入、発現させることで、un-connectable I-SceI site がどの様に修復されるのか調べた。その結果、突然変異頻度は、I-SceI siteが順向きに挿入されているTSCE105の約2倍程度を示した。変異体の遺伝子解析の結果、TSCE206では、NHEJによって生じる欠失領域のサイズが大きい変異体が高頻度で観察された。また、TSCE105ではほとんど観察されなかったHR修復型変異体も確認された。電離放射線によって生じる様な複雑な二本鎖DNA切断のNHEJによる修復には、複雑な切断面を解消するために広範囲のDNAを削る必要があること、NHEJによる結合が容易でない場合、HRが働く場合があること、が明らかになった。