抄録
CHO-K1細胞とHeLa細胞を用いて、Braggピーク近傍のFeイオン(0.93 MeV u-1)を照射した。照射は、放斜線医学総合研究所HIMAC内にある中エネルギービーム(MEXP)照射室で行った。致死の主因であるDNA二本鎖切断(DSB)のマーカーと考えられるヒストンタンパク質H2AXのリン酸化(γ-H2AX)を指標に、免疫蛍光染色を行った。確認されたγ-H2AXの蛍光スポット数は細胞核面積と照射フルエンスから計算された平均ヒット数とほぼ一致したことから、イオン通過部位には必ずDSBが誘発されることを確認した。コロニー形成法を用いてFeイオンによる生存率曲線を取得し、致死の作用断面積(σ)を算出した。細胞核面積Aに対して、σはおよそσ/A=0.45程度であり細胞核あたり平均2.2個のイオンがヒットすると致死を誘発したことなる。同様に、C、N、O、Ne、Arイオンについても、最小でσ/Aは0.5を超えることはなかった。DNA二本鎖誘発率およびその修復についても、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)法を用いて測定した。その結果1イオン通過によって誘発されたDSB数は20個以上と算出された。そして、照射後6時間培養した試料についても、PFGE法を用いて断片化したDNA量を測定した結果、減少がみられなかったことから修復されていないことがわかった。つまり、細胞核にイオンが通過すると必ずDSBを誘発し、それは修復されない。しかし、致死には2個以上のイオンのヒットが必要という結果を得た。このことから、細胞核は致死に対する感受性が一様でない、または感受性領域が細胞核の約半分のサイズであることが考えられた。