抄録
DNA損傷により引き起こされるリン酸化、ユビキチン化などのヒストンH2AXの修飾はDNA修復において非常に重要である。これらの修飾はDNA二重鎖切断(DSB)後に数分の間に起こりNBS1などの相同組換え修復(HRR)に関連する因子の損傷部位への集積を促進する働きがある。しかしながら、H2AX-/-細胞でもHRRで中心的な働きを担うRAD51の局在は正常であることからH2AX以外のヒストン修飾がこの経路に関係していると考えられた。
我々は電離放射線(IR)照射後にH2AXとは独立的にヒストンH2Bのユビキチン化が増加することを発見し、その修飾がHRR経路に重要であることを明らかにした。さらにRNF20はH2Bのユビキチン化におけるE3リガーゼであり、IR照射後に核内フォーカスを形成し、H2Bのユビキチン化を増加させることでDSB部位のresectionを促進し、ヒストンをクロマチン画分から遊離することに重要であることも明らかにした。驚くべきことに、RNF20の発現抑制、またはH2Bのユビキチン化部位の変異によりIR照射後のBRCA1、RAD51のフォーカス形成を阻害できた。これらの実験結果と一致するようにRNF20のノックダウン細胞ではIR照射後のRAD51のクロマチン画分への集積が減少し、SCneo コンストラクトを用いた実験によりHRR頻度の低下も確認された。さらにRNF20の発現を抑制した細胞では、野生型細胞と比較してマイトマイシンC、IRへの感受性を示した。