抄録
細胞への電離放射線の照射は、DNA二本鎖切断(double strand breaks: DSBs)を発生させる。真核細胞では、DSBsに応答して様々な蛋白質が誘導、活性化される。DSBsに対する応答において、毛細血管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia)の原因遺伝子産物であるリン酸化酵素ATMが中心的な役割を果たしている。ATMはリン酸化を介して、Nbs1、53BP1、p53など、DNA修復、細胞周期チェックポイント、アポトーシスに関わる数多くの標的蛋白質を活性化することが知られているが、ATMの標的蛋白質の中には、未同定のものが存在すると予想される。我々は、X線照射前後の蛋白質を2次元電気泳動で展開し、網羅的に解析することにより、未知のATM標的蛋白質を同定することを試みている。2次元電気泳動で展開した蛋白質はビニル膜に転移させた後、これまで報告されているリン酸化特異的抗体(自己リン酸化ATM、リン酸化Nbs1、リン酸化53BP1などに対する抗体)を用いてウエスタンブロットを行った。これまでに、X線照射後にのみ抗リン酸化ATM抗体に交差反応する蛋白質を1種見出しており、現在この蛋白質の同定を進めている。さらに最近、DSBsの発生に応答して様々の蛋白質がユビキチン化されることも明らかになってきていることから、抗ユビキチン化蛋白質に対する抗体を用いた解析も行っている。2次元電気泳動を用いたDNA二重鎖切断応答の解析結果について報告する。