日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: P1-35
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DNA修復酵素
S期依存的DNA損傷応答におけるWRNの役割
*小林 純也奥井 理予CHEN David J小松 賢志
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キーワード: DNA損傷, WRN, NBS1
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抄録
Werner症候群は早老症、高発ガン性を示す常染色体劣性遺伝病として、その原因遺伝子はWRNと同定されている。WRNはゲノム安定性に寄与するRecQヘリカーゼファミリーに属する因子であり、Werner患者由来細胞が様々なDNA損傷に対して高感受性を示すことから、WRNタンパク質はDNA損傷応答で機能することが考えられるが、その詳細はいまだ明らかでない。そのため、我々は様々な種類のDNA損傷応答におけるWRNの役割について、検討を行った。
多くのDNA損傷因子はDNA損傷部位でフォーカスを形成するが、WRNはγ線照射、カンプトテシン処理により、NBS1依存的にフォーカス形成するのが観察された。また、WRNはNBS1と直接結合することが免疫沈降法で確認され、その結合にはNBS1のFHAドメインを必要とし、WRNのATM依存的リン酸化にも重要であった。WRNタンパク質のDNA損傷依存的なフォーカス形成はG1期には見られず、S期にのみ観察され、S期に有意な修復経路である相同組換え(HR)に機能することが示唆された。しかし、WRNノックダウン細胞ではHR活性は正常レベルを示し、HRの初期過程であるRad51のフォーカス形成もγ線照射後に正常に見られ、WRNはHR修復過程において、必須な因子でないことが示唆された。S期損傷修復に関係した別の機構としては、損傷乗り越えDNA合成 (TLS)があり、その制御因子としてPCNAが知られていので、WRNとのインターラクションを検討すると、DNA損傷がないときには両者の結合が免疫沈降法で確認されたが、DNA損傷発生後には解離がみられ、PCNAのユビキチン化も見られた。また、Werner細胞では、恒常的にE3リガーゼであるRad18とPCNAとの結合及び、PCNAのユビキチン化が観察された。また、DNA損傷依存的なWRNからのPCNAの解離には、ATM/NBS1依存的なWRNのリン酸化・分解が寄与することも示唆された。これらの結果から、WRNはNBS1, ATMと協調することにより、TLSの制御に機能し、TLSを介しての発がんを抑制していることが示唆された。
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© 2009 日本放射線影響学会
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