抄録
恒常的に発生しているDNAピリミジンの酸化損傷は、腫瘍形成の原因となり、その多くはシングルヌクレオチド塩基除去修復(SN-BER)によって修復されると考えられている。SN-BERを開始する酸化ピリミジンDNAグリコシラーゼとして、哺乳類ではendonuclease IIIとendonuclease VIIIのそれぞれのホモログ(Nthl1とNeil1)が知られており、主要な酸化ピリミジン除去活性を担っていると考えられてきた。我々は、マウスの様々な臓器の核内に、1価性の新たな酸化ピリミジンDNAグリコシラーゼ活性の存在を発見した。臓器間の活性比較から、この活性は脾臓、胃、肺など臓器において高い比活性を示すことが明らかとなり、細胞増殖の盛んな細胞内で活発に働いている可能性が考えられた。転写が活発な核内においては、apurinic/apyrimidinic (AP)リアーゼ活性を付随するNthl1やNeil1よりも1価性活性の方が安全と考えられることから、マウスだけでなく他の哺乳類にも本活性が存在すると予想される。マウス、サル、ヒトのゲノムサイズは、それぞれ3.3X109、3.0X109、3.0X109塩基対と大きな違いはない。一方で、それぞれ寿命は3年、30年、90年と大きく異なり、また、寿命の長さに反比例して尿中に排泄されるチミングリコール量は減少すると報告されている(Adelman R. et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA)。寿命の長さによって修復機序は異なり、チミングリコール除去能に差があると考えられる。近年、獣医療の発展により十数年の寿命を持つようになったイヌには、ヒトと同様に多様な種類の腫瘍が報告されている。長い寿命を持つイヌのチミングリコール除去活性は、マウスのそれと比較して、低いことが予想される。今回我々は、イヌ肝臓内の1価性チミングリコールDNAグリコシラーゼの比活性を測定したところ、予想通り、マウスのそれより約33%少なかった。