抄録
放射線は、突然変異育種における変異原として利用されている。しかし、その変異誘発効果を遺伝子レベルで明らかにした研究は、ほとんどない。本研究では、rpsL遺伝子導入シロイヌナズナに炭素イオンビーム(220-MeV C : LET=112 keV/μm)およびガンマ線を照射し、それらの変異誘発効果を遺伝子レベルで明らかにした。シロイヌナズナの乾燥種子に対して照射を行ったところ、220-MeV Cとガンマ線でともに、G:C to A:T transitionおよび >2bp deletion/insertionが主な変異として検出された。また、ガンマ線では、220-MeV Cに比べて−1または−2塩基フレームシフト変異が多い傾向が見られた。本研究結果から、ガンマ線は高等植物内で、220-MeV Cに比べて、サイズの小さな変異を誘発する可能性が示唆された。また、G:C to T:AやA:T to C:G transversionの頻度が上昇しなかったことから、放射線により誘発されるグアニン酸化体の変異誘発に対する寄与は、乾燥種子内では小さいと予測された。我々は、細胞の水分含量および分裂活性の高い実験材料を用いると、水の放射線分解によるラジカル生成やDNA複製時の酸化損傷の取り込みにより、DNA酸化損傷の変異誘発効果が評価できると考え、生育途中のシロイヌナズナ幼植物体にガンマ線照射し、変異解析を行った。ガンマ線により幼植物体内で誘発される変異は、乾燥種子のものと類似しており、G:C to T:AやA:T to C:G transversionの頻度は、上昇しなかった。このことから、高等植物では、放射線誘発変異スペクトルに他の生物種との違いがあることが示唆された。