日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: P2-62
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低線量・低線量率
長期低線量率照射したヒト早発性老化症候群モデルマウスの寿命に関する炎症物質に及ぼす影響
*野村 崇治
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抄録

これまで当所では、老化を制御するklotho遺伝子を欠損したヒト早発性老化症候群モデルマウス(以下klothoマウス)に、長期間連続した低線量率ガンマ線(0.63 mGy/h)照射を行うと、顕著に寿命の延長効果が生じることを見出した。さらに種々の臓器で抗酸化機能が亢進することも明らかにした。寿命延長効果の成因には、抗酸化機能の亢進やインスリン抵抗性の亢進など様々な報告が挙げられている。klothoマウスの加速的な老化現象は、糖代謝やカルシウム代謝に関与するklotho遺伝子の欠損である。昨年度、低線量率連続照射による抗酸化機能の亢進と、非照射で減少する血中カルシウム濃度の維持を報告した。今回、さらにklothoマウスの低線量率照射による寿命延長効果の成因を調べるため、血液中の糖濃度・インスリン濃度の変動を測定した。また、照射による酸化ストレス等で生じる炎症についても、そのマーカーの一つであるTNF-alphaの血中濃度の変動を測定した。線源に137Cs(314 GBq)のガンマ線を用いた。メスのklothoマウス28日齢を0.63 mGy/hrの線量率で連続照射を行った。
klothoマウスのTNF-alpha血中濃度は照射により減少したことから、照射による生体内の炎症の抑制が生じたと考えられる。またklothoマウス照射群の血糖値は低下したが、血中インスリン量の変動はなかった。これに対し非照射対照群では、血糖値は変化しないものの、インスリン量は低下した。これまでの知見から、照射群の抗酸化物質の増強による酸化ストレスの軽減を示唆できる結果となった。
klothoマウスの寿命延長効果は、今回新たに得られた炎症の抑制と、これまで得た抗酸化機能の亢進、およびカルシウム代謝に関する機能の制御から複合的な効果が寄与したと推察できた。

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