抄録
国際原子力機関(IAEA)をはじめ、幾つかの機関では「防護措置が必要のない線量」を決定している。陸上植物に関しては、IAEA(1992)、国連放射線影響科学委員会(1996)、米国エネルギー省(1999)は10 mGy/day、カナダは2000年に3 mGy/dayと定義づけている。これらの機関が決定した値は、防護措置が必要のない線量率として求めているのだが、植物の生体応答反応を見ているわけではない。
そこで演者らは、チェルノブイリの汚染土壌を外部線源として、イネの葉を水生培養させながら極低線量の放射線(5.34μGy/day)を4日間遮蔽体内で照射し、mRNAを抽出したものをDNAマイクロアレイにかけ、コントロール(0.49μGy/day)と比較した。
その結果、516遺伝子の発現が確認され、そのうち194遺伝子が増加を示し、322遺伝子が抑制を示した。
機能別に見ると、大きく3つのカテゴリーに分かれており、Infomation strage and processing (Up2%/Down7%), Cellar processing and signaling (Up15%/Down7%), metabolism (Up13%/Down19%)であった。
その中で、興味を引く遺伝子として、重金属、オゾン、二酸化イオウ等により誘導される遺伝子PBZ1(OsPR10a)の発現量が、もっとも大きかった。一方、エネルギー代謝系のGAPDH、RuBisCoの小サブユニット、ATPase イプシロン鎖mRNAの抑制が強く見られた。
現在、イネに対する極低線量放射線の影響をより詳しく観察するため、セシウム137面線源を作成し種々の線量率(2~100μGy/d)で照射実験を実施している。それらの結果については共同演者のRandeep Rakwalが、今大会のワークショップ「様々な生物の放射線応答―その多様性と共通性」で報告する。
参考文献
1. Kimura S, Shibato J, Agrawal GK, Kim YK, Nahm BH, Jwa NS, Iwahashi H, and Rakwal R.: Microarray analysis of rice leaf response to radioactivity from contaminated Chernobyl soil.: Rice Genetics Newsletter, 24: 52-54, 2008.
2. Rakwal R, Agrawal GK, Shibato J, Imanaka T, Fukutani S, Tamogami S, Endo S, Sahoo SK, Masuo Y, Kimura S.: Ultra Low-Dose Radiation: Stress Responses And Impacts Using Rice as a Grass Model: Int. J. Mol. Sci., 10: 1215-1225, 2009.