抄録
放射線照射細胞で活性化するG1チェックポイントは、ゲノム損傷を有する細胞に永続的細胞周期停止を誘導する。G1チェックポイントのシグナル伝達経路としてはATM-p21-p53経路が知られているが、この経路が不可逆的なG1アレストの維持にも関与しているかどうかは未だ不明である。本研究では、G1チェックポイントを維持するための「シグナル安定化機構」が存在するという仮説を立て、これを立証することを目的とした。
まず、G1チェックポイントシグナル安定化にATM機能が関与しているかどうかを検討した。照射線量については、照射後ほとんどすべての細胞でG1アレストがかかる10 Gyとした。G0 期に同調した正常ヒト二倍体細胞にγ線を照射後すぐに同調を解除し、照射12時間後からATM阻害剤KU55933(以下KU)を後処理し、照射24時間後に、チミジンのアナログであるエチニルデオキシウリジン(以下EdU)の取り込みを指標にして、S期進行細胞の割合を検討した。その結果、放射線照射により低下したS期進行細胞の割合は、KUを照射後高濃度で処理しても回復しなかった。次に、KU処理時間を、照射96時間後まで延長したところ、S期進行細胞の割合は、24時間後には非照射群が24.6 %に対して4.8 %, 48時間後は59.5 %に対して19.1 %、72時間後は57.5 %に対して33.4 %、96時間後は54.8 %に対して36.2 %と、経日的に回復した。
以上の結果から、G1チェックポイントの維持機構にはATMが必須であること、ATM依存的なG1アレストの解除は非常に緩やかであることが明らかとなった。