抄録
γ線を照射した細胞はp53リン酸化に関与するATM依存的なシグナル伝達経路が働くことがよく知られている。しかし、ATM非依存性の放射線応答経路についてはよくわかっていない。4.32 Gy の高線量率(0.9 Gy/min)または中線量率(60 mGy/h)γ線を照射したATM欠損マウス胎子線維芽細胞(MEFs)と正常MEFsの遺伝子発現をマイクロアレイ解析により比較したところ、ATM 欠損MEFsへの照射によって発現上昇が見られる遺伝子としてIrf7や Stat1 などのインターフェロン関連遺伝子が検出された。ATM特異的阻害剤(KU55933)存在下で高線量率または中線量率γ線照射を行った正常MEFsでもIrf7や Stat1遺伝子の高い発現上昇が確認された。また、ATM阻害剤存在下で非照射の正常MEFsや、ATM阻害剤不在下で高線量率γ線照射した正常MEFsでもこれらの遺伝子発現上昇は確認された。一方、ATM阻害剤不在下で中線量率γ線照射した細胞では発現上昇が見られなかった。次に、高線量率γ線照射した正常MEFsの培養上清を非照射正常MEFsに添加したところ、Irf7と Stat1遺伝子発現の亢進が見られた。現在、ATMを不活化したMEFsの培養上清に関しても検討中である。本結果から、ATMの不活化や高線量率γ線照射は正常MEFsでのIrf7と Stat1遺伝子の発現を亢進させることと、γ線照射後のIrf7と Stat1遺伝子の発現上昇は液性因子を介したバイスタンダー効果による可能性が考えられた。本研究は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。