抄録
研究目的及び背景:細胞の遊走・浸潤はX線照射により亢進する例があり、また遊走・浸潤に関与するmatrix metalloproteinaseの生成および細胞の伸展などにはp53機能の関与がいわれている。本研究は、がん由来細胞の遊走・浸潤能が炭素線照射されたときに亢進するのか否か、その変化はp53の機能と関連するのか否かを知ることを目的とする。
材料・方法:細胞は小細胞肺癌由来H1299(p53欠失(neo)、p53野生型(wt)、p53変異型(mt)、大西武雄教授(奈良医大)より供与)および肺腺癌A549(p53野生型)を用いた。細胞は培養フラスコ内で接着培養し、炭素線を照射した。炭素線照射はHIMACの290MeV/nのモノピークビーム、LET=100keV/μmで行った。細胞生残率曲線を得るため、細胞を照射直後に酵素処理、単細胞分散した後にコロニーアッセイを行った。遊走・浸潤能測定はマトリゲル(1mg/ml、日本BD)でコートしたカルチャーインサート(8μmポアサイズ)を用い評価した。放射線照射後24時間培養した細胞を、インサート内(0.1%牛血清アルブミン含有DMEM)に播種し、さらに16時間培養後にインサート膜の下面(DMEM+10%FBS培地側)に移動した細胞数を計数し、移動率から遊走・浸潤能の大きさを評価した。
結果:炭素線100keV/µm照射による細胞生残率曲線から、X線(150kV)に対するRBE(10%生残線量の比較)は2.2~3.2であった。遊走・浸潤能については、炭素線0.5~4Gy照射されたH1299neo、野生型および突然変異型いずれの細胞もマトリゲルコート膜下面への移動率は減少し、4Gy照射によって約60%前後にまで浸潤能の低下が認められる。A549細胞においても同様の傾向を示した。X線8Gyではそれぞれの細胞は約50%~60%に浸潤能が低下した。
まとめ:炭素線では明確な遊走・浸潤の亢進は認められず、4GyではX線8Gyと同程度の抑制効果を認めた。