抄録
放射線照射が、細胞内の活性酸素種(ROS)のレベルを一時的に増加させることはよく知られているが、我々のこれまでの研究で、放射線照射正常ヒト二倍体細胞において、遅延的にROSの産生が再上昇することを見いだし、遅延的なミトコンドリアの機能不全が起こっているのではないかと予想した。これまでに、ミトコンドリアは間期の細胞においては互いの膜と膜が結合し、チューブ状の構造をしていることがわかっており、分裂期やアポトーシス誘導時にはチューブ状の構造がフラグメント化することが報告されている。特にアポトーシス誘導時にはミトコンドリアがフラグメント化することでミトコンドリア膜透過性が亢進していることが報告されている。そこで本研究では、ミトコンドリアの形態がミトコンドリア機能において重要であると考え、ガンマ線照射によるミトコンドリア形態変化を検討した。
細胞は正常ヒト二倍体線維芽細胞(BJ-hTERT)を用いた。ガンマ線照射後の細胞内の酸化ストレスの測定にはaminophenyl fluorescein(APF)試薬を用いた。また同時に、MitoSox Redにより、ミトコンドリアに局在するO2-レベルの測定を行った。さらに、ミトコンドリアの形態については、MitoTrackerを用いてミトコンドリアを可視化し、蛍光顕微鏡下で観察することにより検討した。
今回使用したBJ-hTERT細胞ではガンマ線照射によりアポトーシスが誘導されないにもかかわらず、6 Gy照射3日後に約50 %の細胞においてミトコンドリアのフラグメント化が観察された。そして照射4日後以降、再びチューブ状のミトコンドリアを持つ細胞の頻度が増加した。APFにより細胞内酸化ストレスを測定した結果、照射2~3日後から酸化ストレスが増加し、このとき、2 Gy照射細胞では非照射細胞の1.4倍、4 Gy照射細胞では2倍、6 Gy照射では3倍程度までそのレベルが増加した。また、ミトコンドリアからのO2-の産生量も同様の傾向を示し、照射1日後から次第に増加し、照射3日後に最大となった。
以上の結果より、ガンマ線照射数日後に誘導される遅延性のミトコンドリアの形態変化が原因となってミトコンドリア機能不全がおこり、その結果、細胞内酸化度が遅延性に増加したと考えられる。