抄録
3T(テスラ:1T=10,000Gauss)を超える高解像度MRIなど,公衆が強磁場に曝露する機会が増加しているが、定常強磁場の生体影響評価は未だに充分ではなく、健康リスク評価のための研究が求められている。一方、これまでの研究では、磁場曝露による突然変異頻度の増加や化学変異原の変異原性に対する微弱な増強効果(助変異原性)が認められた場合があり、それらの機序として酸化ストレスの付与や活性酸素種(ROS)の寿命への効果が示唆されている。本研究では、ROSの1つであるsuperoxideに着目し、大腸菌のSOD遺伝子欠損株を用いることにより、細胞内のsuperoxideに対する定常強磁場の影響について、変異原性および助変異原性を指標として評価することを目的とした。
定常磁場曝露装置として、温調装置を組み込んだ超伝導磁石(JASTEC社製JMTD-10C13E-NC)を用い、37°Cで最大13Tの磁場を曝露した。試験株として、大腸菌E. coli QC774 (sodA sodB, Cmr Kmr)とその野生株GC4468を用いた。変異原性試験では、試験株をLB培地に接種し、5、10、13Tの定常磁場に24時間曝露した。また、同時に磁場の助変異原性を評価するため、Superoxideを発生するPlumbaginをLB培地に添加(25μM)し、同様に曝露した。曝露後、チミン非要求性(Thy+)から要求性(Thy-)を指標として遺伝子変異頻度を算出した。
この結果、全ての磁場曝露群において変異頻度は非曝露群と同様であり、変異原性は認められなかった。また、助変異原性については、磁束密度の上昇に伴い変異頻度が下がる傾向が見られたが、有意な差ではなかった。これらの結果より、13Tまでの定常強磁場は、SOD欠損大腸菌に対して変異原性を示さないこと、また、superoxideが原因となる変異原性に対して影響を及ぼさないことがわかった。従って、磁場の変異原性/助変異原性はsuperoxide以外の要因によることが示唆された。