日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: P3-111
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放射線発がん
Bcl11bKO/+遺伝子型は放射線誘発胸腺リンパ腫前駆細胞の出現を加速する
*郷 梨江香森田 慎一広瀬 哲史木南 凌
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抄録
放射線4回分割照射後に生じるリンパ腫前駆細胞の特徴、細胞生物学的特色や発がんに関わる遺伝子変化の解析を、野生型(wt)マウスの胸腺を対象に行なってきた。照射後最初に観察できる変化はがん抑制遺伝子Bcl11b/Rit1のLOH(アレル消失)である。この時点では、TCRβ座のVDJ組み換えパターンは正常胸腺細胞と同じく多様なパターンを示す(Tタイプ)。すなわち多種類細胞への分化能を持つ異常増殖細胞の出現である。次にVDJ組み換えパターンの多様性を欠く細胞の出現が見られ、これは多種類細胞への分化能を消失した細胞である(Cタイプ)。なお、どちらもCD4/CD8-DPまで分化した胸腺細胞からなっている。一方、Bcl11bのLOH検出から予想されるように、Bcl11bKO/+マウスはwtと比べて早期に胸腺リンパ腫を発症する。今回、Bcl11bKO/+マウスを用いて上述した異常増殖細胞の出現とその時期の検討を行い、これらの変化に対するBcl11bKO/+遺伝子型の影響について考察した。10週齢マウスにγ線3Gy 1回照射を行い、30日後に胸腺の解析を行なった結果、Bcl11bKO/+マウスでは胸腺細胞が減少し、VDJクローナル増殖(Cタイプ)が半数に見られた。さらに個々の胸腺の特徴は3群に分類され、(1)正常類似(Tタイプ)の細胞、(2)CタイプでCD4/CD8-DPまで分化した細胞、(3) CタイプでCD4/CD8-DPまで分化できない細胞、をもつ胸腺である。wtで行なった4回分割照射の結果と比べると2つの違いが観察される。(2)で示す細胞が早期に出現すること、(3)で示す未分化な新しい細胞腫の出現である。この結果から、Bcl11bKO/+遺伝子型はVDJクローナル増殖胸腺細胞の出現を加速し、胸腺分化を停止させることが示唆され、これが発がん感受性を与えると考えられた。同様に4週齢マウスでも解析を行なったが、このような変化はほとんど見られなかった。これは、週齢によりBcl11bKO/+マウスの放射線感受性が異なることを示す。
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© 2009 日本放射線影響学会
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