抄録
【はじめに】近年、劣化ウラン弾汚染や我が国での再処理工場の試運転などを背景にウランの健康影響に対する関心が高まっている。特に子ども影響に関する科学的根拠は乏しく、放射線防護の観点から早急な対応が求められている。これまでに我々は、幼若ラットにおける腎臓毒性について検討し、年齢による感受性の違いを示した。本研究ではこの機序を明らかにするため、腎臓の発達とウラン分布の関係を調べた。
【実験】動物の処置:Wistar系雄性ラットを用いた。生後3日目に一腹あたり6匹として飼育し、7日目(1週齢)あるいは25日目(3週齢)に酢酸ウラン(天然型)を皮下に一回投与(2 mg/kg)した。経日的に屠殺して腎臓を摘出した。ウランの分析:腎臓中ウラン濃度は誘導結合プラズマ質量分析により測定した。腎臓内ウラン分布は高エネルギー領域シンクロトロン放射光蛍光X線分析(SR-XRF)により調べた。組織観察: TUNELおよびヘマトキシリン染色を行った。近位尿細管セグメント分別:セグメントマーカーの免疫染色を行った。
【結果】1週齢ラット腎臓は、皮質と髄質が互いに入り組んだ構造をしており、ウランは皮質の内辺部に局在していた。3週齢では成熟ラット様の層状構造となり、髄質、髄質外辺部、皮質が区別でき、髄質外辺部から皮質内辺部にかけてウランの分布が認められた。下流近位尿細管部位のS3セグメントの分布は、ウラン分布とよく一致していた。すなわち、1週齢では皮質の内辺部のごく一部に限局していた。3週齢になると腎臓重量は2倍ほどに急増し、S3部位は髄質外辺部から皮質内辺部にかけて広く分布した。1週に比べ3週齢ラットでウランの腎臓移行や腎障害の感受性が高いことから、ウランの選択的な蓄積部位である近位尿細管S3部位の量や急激な新生が感受性の違いをもたらしたものと考えられた。