抄録
近年、日本の医師の不足の問題は大きな関心を集めている。特に、小児科、産科・産婦人科、麻酔科の三診療科は医師不足が深刻であるとされている。しかし、その現状について数量的・包括的に説明した論文はそれほど多くない。本論文は新聞記事検索システムおよび官庁統計を用いて、現在起きている三つの診療科の医師需給問題の構造を明らかにすることを目的とする。
分析の結果、不足の原因は産科・産婦人科は主として医師の供給側にあるのに対し、小児科および麻酔科は需要側にあることが明らかとなった。まず最も不足が深刻な産科・産婦人科では、医師数が絶対的に減少をしており、少子化の傾向などを考えてもなお問題は医師の供給側にあると考えられる。小児科に関しては、医師数は絶対数では増加しているものの、他科の医師と比べて増加率は低い。地域偏在に関しては、改善は目立って進んでいるとは言えず、医師の集約化も進んでいない。これらに対して、麻酔科医師は、絶対数としても増加しているし、増加率も医師全体の増加率よりはるかに高い。麻酔科医師の不足は、供給要因というよりは医療の質・安全意識の高まりによる麻酔科専門医需要の増大による需要要因と考えられる。
このように同じ医師不足を抱える診療科でも不足の構造は異なっており、それぞれの診療科の不足状況に合わせた対策が必要となるであろう。