抄録
2次元DNAゲル電気泳動(DNA 2-DE)法はプローブを用いることなく可視化される数千個のNotI DNA断片についてその断片長に変化が起きた遺伝子突然変異を検索できる。4GyのX線を照射したB6C3F1マウス精原細胞に由来するF1マウス505匹と対照群F1マウス502匹、合計1,007匹について1,190個の父親由来スポットと1,240個の母親由来スポットを選んで解析を行った。4Gy照射群では父親由来のスポット595,387個中に12個(合計6匹のマウス)に突然変異を検出した。分子解析の結果12個のスポットは6例の突然変異に起因していることが分かった。そのうちの5例は欠失領域が1.9Mbから13Mbに及ぶ大きな欠失突然変異で、1スポット喪失が1例、2スポット喪失が3例、4スポット喪失が1例であった。照射群における残り1例は、マイクロサテライト遺伝子座に見られた6bpの配列延長であった。対照群では583,051個の父親由来スポット中に2.3Mbの遺伝子欠失(2スポット喪失)が1例検出された。母親由来のスポットでは1,228,352個中にマイクロサテライトでの34bp欠失1例と2.5Mbの欠失1例が検出された。個々のスポットを1遺伝子座と仮定すると、自然突然変異率は0.34×10-5/遺伝子座/世代と推定される。一方、放射線による誘発率は0.42×10-5/遺伝子座/Gyと推定された(しかし、信頼区間には0が含まれる)。DNA 2-DE法は数bpといった小さな欠失から数Mbといった大きな欠失まで検出可能という特徴があるが、私たちの推定値はマウスの7遺伝子座による値、2-3×10-5/遺伝子座/Gyに比べてかなり小さい。DNA 2-DE法がゲノムの約0.2%を調べていることを併せて考えると1Gyの放射線でオス精原細胞を照射した場合1匹のマウスゲノム当たりおよそ1個、せいぜい数個以内の比較的大きな遺伝子欠失(>数十kb)が誘発されると考えられる。