日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: P3-133
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放射線被ばく影響・疫学
原爆被爆者甲状腺乳頭がんにおける染色体再配列とPIK3CA遺伝子増幅
*高橋 恵子多賀 正尊伊藤 玲子中地 敬濱谷 清裕
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抄録

甲状腺がんは、放射線被曝との関連が強いがんの一つであり、原爆被爆者においても、その危険度が被曝線量に比例して増加することが見出されている。甲状腺乳頭発がんの重要な初期事象はMAPKシグナル伝達系の持続的活性化であり、この活性化は2つのタイプに分類しうるかもしれない以下のような遺伝子変異の一つによって引き起こされる:すなわちRETおよびNTRK-1染色体再配列、またはRASおよびBRAF遺伝子点突然変異である。さらに、これらの遺伝子変異のほとんどは、MAPKシグナル伝達系だけでなくPI3K/AKTシグナル伝達系も活性化することが知られている。最近、PI3K/AKTシグナル伝達系に関連するPIK3CA遺伝子の増幅が甲状腺乳頭がんで見出されており、PI3K/AKTシグナル伝達系の活性化も甲状腺乳頭発がんに関与することが示唆される。
放射線被曝と甲状腺乳頭発がんの関連を明らかにするために、我々は73症例の原爆被爆者成人甲状腺乳頭がんについて、MAPKシグナル伝達関連遺伝子の変異すなわちRETNTRK1およびBRAF再配列、並びにBRAFおよびRAS点突然変異の解析を行なった。原爆被爆者成人甲状腺乳頭がんにおいて、BRAFおよびRAS点突然変異の相対頻度は放射線量の増加にともない有意に減少するのに対し、RETNTRK1遺伝子再配列は放射線量の増加にともない相対頻度が有意に増加することを見出した。これらの結果は、放射線関連成人甲状腺乳頭発がんにおける染色体再配列、特にRET/PTC再配列の役割の重要性を示している。
また、他の未同定の遺伝子変異を有する甲状腺乳頭がん症例は高線量に被曝し,被曝後早期に発症した患者に多く観察された。この結果は、RET/PTC遺伝子再配列以外の他の放射線関連遺伝子変異が放射線関連甲状腺乳頭発がんに関与することを示唆する。このことを考慮し、現在、PI3K/AKTシグナル伝達関連遺伝子PIK3CAの増幅について解析を行なっており、その結果も合わせて報告する。

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© 2009 日本放射線影響学会
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