抄録
がん細胞ではがん化に伴って起こる遺伝子変化などにより、生存シグナルの活性化による細胞増殖の亢進や、細胞死シグナルの異常によるアポトーシスや非アポトーシス(オートファジー, マイトティック・カタストロフィ、ネクローシス)の誘導が抑えられていることが知られている。がん治療を効率よく行うために、がん細胞のシグナル伝達因子のはたらきを選択的に制御し、がん細胞の生存シグナルを抑制したり、細胞死シグナルを誘導したりする分子標的がん治療が近年注目されている。放射線(X線や重粒子線)、抗がん剤や温熱応答に影響を受ける細胞内シグナル伝達にはp53を介した経路、JNKを介した経路、Akt/mTORを介した経路、NBS1を介した経路、古典的MAPキナーゼ経路およびp38-MAPキナーゼ経路がある。これらはそれぞれ細胞死、細胞生存、細胞増殖および細胞分裂停止などを誘導する。我々はこれまでにがん細胞の生と死のシグナル応答を制御することで、放射線、抗がん剤や温熱に対する感受性を高めることを報告してきた。ここではこれまでの知見と研究結果をふまえて、我々の考えるがん治療の戦略について紹介する。