抄録
低線量率放射線の発癌メカニズムについては分かっていない部分が多い。癌は自己複製と多分化能を有する癌幹細胞を起源とする細胞集団である。本研究では、低線量率放射線によって白血病幹細胞(LSC)の起源となる分化段階の造血細胞を特定することを目的として実験を行った。放射線誘発白血病の多発系であるC3Hマウスに20 mGy/day、400 mGy/day、1.0 Gy/minのγ線をそれぞれ総線量8 Gy、4 Gy、3 Gy照射して発生した白血病と、非照射で自然発生した白血病について、アレイCGHによる染色体解析、FACSによるCD抗原解析、骨髄移植によるLSCの特定を行い、それぞれの特性を比較した。染色体解析の結果、全ての実験群の白血病のそれぞれ約半数で、7番染色体のセントロメア側に約30Mbの片側欠失が見られた。対照的に2番染色体上の白血病関連遺伝子、PU.1の片側欠失は線量率に依存して高く、非照射群、20mGy/day照射群、400 mGy/day照射群、1.0 Gy/min照射群の白血病で、それぞれ6%、30%、56%、90%に観察された。これらのPU.1の片側欠失を持つ白血病(PU.1del白血病)には、線量率に関係なく残存するPU.1にも高頻度に点突然変異が見られた。PU.1del白血病は骨髄球系共通前駆細胞(CMP)に特異的なCD抗原を発現する細胞が増加していたのに対し、PU.1に異常のない白血病(PU.1wt白血病)は、リンパ球系共通前駆細胞(CLP) に特異的なCD抗原を持つ細胞が増加していた。さらにLSCの起源となる分化段階の造血細胞の探索では、PU.1del白血病は造血幹細胞とCMP様細胞、PU.1wt白血病はCLPと顆粒球系細胞にそれぞれLSCが存在した。以上の結果より、線量率の違いによってLSCの起源、及び、原因となる遺伝子異常が異なる可能性が示唆された。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。