日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: W2-1
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環境放射能研究とretrospective dosimetryの展開
JCO臨界事故と線量評価
*明石 真言
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キーワード: 臨界事故, 線量評価, 中性子
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抄録
放射線被ばくでは症状がすぐにでることは一般に稀である。平成11年9月30日茨城県東海村で起きた事故(JCO臨界事故)は、症状がすぐに現れたという点で稀な範疇に入る。つまり高線量かつ高線量率での被ばくということである。放射線被ばくが起きた場合の線量評価には、生物・医学的なアプローチと再現実験を含めた物理学的なものとがある。前者は生じた体内の変化と障害の程度により行うが、体内に生じた放射性物質の定量によるものは後者に属する。治療を必要とする場合、治療方針の決定のためには早期の線量評価が必要となる。この治療方針決定のための線量評価には、小数点以下の数字まで必要とするものではなく、5 Svを超えるのか、10 Sv以下であるか、といった大まかな数字がまず求められる。一方放射線防護という観点に立てば、より詳細な数字が求められるが、計画被ばくとは異なり不慮の事故では、線量評価で一つの数字を出すことは困難である。JCO臨界事故では、高線量被ばくを受けた疑いのある3名の被ばく線量の推定がまず求められた。高線量率で高線量の全身被ばくでは、被ばくに特異的とは言えないが、嘔吐、下痢、体温の上昇などの前駆症状が現れる。これらの発症時期と程度から、3名の線量は10 Sv以上、6 Sv以上、4 Sv以下と推定され、この線量が治療方針の決定の基礎になった。最終的には、中性子により体内に生じた24Naの被放射能からの計算、染色体、リンパ球の減少速度、ホールボディカウンタの計測値等の総合評価から、各々16-25, 6-9, 2-3 生物学的γ線相当線量(GyEq)(「ウラン加工工場臨界事故患者の線量推定」最終報告書 平成14年2月)とされた。この事故では、中性子線とγ線の混合被ばくであること、事故被ばくでは常である様に不均等被ばくであり、症状の発症時期と推定線量が従来の知見と一致しないなど、線量評価の難しさが示された。また症状、リンパ球の減少速度と染色体による評価では、GyEqでしか推定できない。一方24Naの被放射能からの推定値と比較するために、中性子による影響はRBEを考慮しなければならず、13 MeVの中性子によるマウス腸管死の結果から値を1.7とした。このほかにも、骨中の32Pと45Caの量による局所線量分布、計算シミュレーション手法による線量再構築などが行われた。
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© 2009 日本放射線影響学会
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