抄録
1986年の4月から5月にかけてチェルノブイリ原子力発電所(CNPP)の事故によって大量の放射性ヨウ素(主に131I, T1/2=8日)が放出された。汚染地域における小児甲状腺がんの増加は、事故によって放出された放射性ヨウ素によるものであると仮定された。しかしながら、空気中、土壌中などの環境下における131Iレベルの適切なデータが不足しているため、患者の事故による131Iからの線量評価を行う事が困難である。この地点において、環境中の131Iレベルを評価するために、CNPPから放出された131Iと長寿命ヨウ素である129I (T1/2=15.7 × 106年)との比が使用できる可能性がある。われわれは、現在の汚染レベルと分布パターンを評価することを目的として、CNPPの30 kmゾーンから収集された土壌試料中の129I濃度及び129I/127Iの原子数比の分析を行なった。ピロヒドロリシス法が土壌試料中の127Iと129Iの分離に用いられ、微量ヨウ素の分析には、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)と加速器質量分析法(AMS)を用いた。CNPPの30 kmゾーンの表層土壌試料中の129I濃度および129I/127I原子数比はそれぞれ、4.6から170 mBq kg-1及び1.4 × 10-6から13 × 10-6であった。これらの値は129Iの世界的なフォールアウトの値と比べて非常に高く、検出された129Iの多くが事故に起因するフォールアウトである事を示している。この地域の安定ヨウ素濃度のほとんどが非常に低いレベル(1ppm以下)であった。したがって、この地域における環境中のヨウ素は潜在的に低い事が示唆された。表層及び表層下の土壌の129I /137Cs放射能比は7.3から20.2 × 10-7の幅があり一定ではない。これは、これらの核種の堆積もしくは移行の挙動が異なる事によるかもしれない。これらの結果から、得られた129Iのデータは汚染地域における131Iの評価にとって有用である事が示唆された。