日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: W5-4
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紫外線DNA損傷の修復欠損遺伝病とその分子病態
DNA単鎖切断修復蛋白アプラタキシンと神経疾患
~常染色体優性・劣性小脳失調症とAAA症候群~
*平野 牧人森 俊雄池田 真徳浅井 宏英桐山 敬生降矢 芳子上野 聡
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抄録
アプラタキシンは本邦で最も多い常染色体劣性小脳失調症の原因遺伝子として同定され、本邦においてFriedreich失調症とされてきた大部分が、このアプラタキシン関連小脳失調症であることが判明した。私たちは、アプラタキシンが酵素活性を有し、病的変異蛋白が活性を失うこと、さらにDNA単鎖切断修復にin vivoで関与することを、アプラタキシンのノックダウン細胞、患者線維芽細胞、さらに患者小脳組織を用いて証明した。またDNA単鎖切断は酸化ストレスにより蓄積し、抗酸化剤により抑制された。他の研究者から、この蛋白はDNA単鎖切断部位における5’端のAMP化や3’端のリン酸基を除去する活性が報告され、本修復系の重要な構成蛋白である事が明らかにされた。
また、私たちはアプラタキシンの核内輸送が別の常染色体劣性疾患であるAAA症候群において障害されていることを見出した。この疾患は筋萎縮性側索硬化症と類似した臨床症状を示し、時に小脳失調も呈するが、その他食道アカラシア、無涙症、副腎皮質機能不全を合併する。原因蛋白アラジンは核膜孔蛋白であり、新たに見出した変異蛋白は核膜に移行できない。AAA症候群では核内アプラタキシンの減少に伴い、酸化ストレスによるDNA損傷と細胞死が増加した。
さらに、アプラタキシンの核内輸送に、リン酸化が関与している事を最近発見した。すなわち、常染色体優性脊髄小脳失調症14型の原因であるProtein kinase Cγ (PKCγ)がアプラタキシンの核局在シグナル近傍をリン酸化し、核内輸送を阻害した。PKC阻害薬で、アプラタキシンの核内輸送、酸化ストレス時のDNA修復能、細胞生存率は改善した。
以上の研究成果はDNA修復蛋白であるアプラタキシンの質的・量的変化が、神経疾患に関与している事を示し、神経で多いとされる酸化ストレスによるDNA損傷蓄積が神経変性の一因であることを示唆する。
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© 2009 日本放射線影響学会
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