抄録
がん細胞の放射線耐性はがんの再発を引き起こし、放射線治療の失敗の主な原因である。放射線耐性の分子機構を解明することにより、耐性を抑制し、より有効な放射線治療法の確立が可能である。本研究では、放射線耐性に関わる分子の同定を目的として、ヒト肝がん細胞株HepG2と子宮頚部がん細胞株HeLaを用い、放射線治療で用いられる分割照射による放射線応答の解析を行なった。これまでの解析から、0.5 GyのX線を1日2回、31日間分割照射した細胞株(31分割細胞)では、照射していない対照細胞に比べ、放射線治療で用いられる2 Gyの放射線に対し、耐性を示した。また、31分割細胞を, さらに31日間照射を休止した細胞株(31分割休止細胞)でも放射線耐性が安定に維持されることから、分割照射によりがん細胞が放射線耐性を安定して獲得することが示唆された。
長期分割被ばくにより放射線耐性を獲得した細胞では、細胞周期の進行を制御するサイクリンD1が過剰発現し、DNA合成期(S期)においてもその発現が維持されている。S期におけるサイクリンD1の過剰発現はS期の進行を阻害するため、長期分割被ばく細胞はS期に蓄積している。また、長期分割被ばく細胞ではgamma-H2AXやRad51のフォーカス形成が観察されることから、相同組み換え修復(HRR)が活性化されていることが示唆される。放射線耐性の獲得におけるHRRの役割を解析するため、Rad51のsiRNAを用い、HRRを抑制した。その結果、長期分割被ばく細胞の放射線耐性は完全に消失した。
以上の結果より、長期分割被ばくによりサイクリンD1が過剰発現し、細胞をS期に蓄積させる。また、HRRを活性化することでがん細胞は放射線耐性を獲得する。HRR経路を標的として抑制することで長期分割被ばくによる放射線耐性を制御することが期待される。