抄録
電離放射線によるゲノム損傷は、初めのダメージの修復が完了したのちにも細胞応答を活性化し続け、遺伝的不安定性や変異頻度の上昇を一定期間にわたって誘導する。この現象は遅発性突然変異と呼ばれており、エピジェネティックな損傷の記憶系と、その下流に位置する変異導入系の活性化の結果起こると考えられている。
分裂酵母Schizosaccharomyces pombeをモデル生物として用いたわれわれの研究から、これまでに、(1)X線照射は、それによる細胞周期の停止から回復したのち、約10細胞世代にわたって組換え頻度を上昇させること、(2)遅発性におこる組換えは初めの損傷の位置や損傷によって誘導される活性酸素の産生とあまり相関がなく、transに起こりうることと、(3)X線照射は、分裂を行っている細胞内における組換え修復因子Rad22の遅発的な活性化も誘導すること、(4)Rad22の遅発的な活性化は遅発性組換えと同程度の期間継続することが明らかになっている。これらの結果は、Rad22が遅発性組換えにおいて重要な役割を担っていることを示唆しているが、Rad22の遅延的な活性化を制御するメカニズムは明らかになっていない。
われわれは現在、Rad22をベイトとしたプルダウンアッセイと質量分析を組み合わせてRad22の活性調節因子の検索を試みている。本演題では、これまでの調節因子検索の結果を、損傷記憶と遅発性突然変異の研究の簡単なまとめともに紹介する予定である。