主催: 日本放射線影響学会, 第52回大会長 大久保利晃 (財団法人 放射線影響研究所)
21世紀初期の20年間に長期間の宇宙飛行が計画されている。国際宇宙ステーション(ISS)の計画が進み、月のみならず火星への探査も計画されている。様々な宇宙科学実験のために宇宙空間に長期間生活する必要がある。宇宙環境では1日0.2~0.3mSvの放射線被曝が細胞代謝に影響する。そのような計画では宇宙飛行士への宇宙線による被ばくは不可避であり、そのリスクを評価する必要性が増大している。宇宙計画に伴う現実的なリスク評価を物理的、生物学的両方の知識に基づいて最適に彼らを守る緊急の必要性がある。リスクに影響する細胞の代謝やホメオスタシスを考慮し、遺伝子変化の調査が重要である。本研究ではヒト神経細胞NB-1に0.1mGy, 1.0mGy, 10mGy,そして100mGyを1回照射し、30分後および2時間後における細胞からmRNAを分離し遺伝子発現を定量RT-PCR法により分析した。その結果、ミトコンドリアゲノム、電子伝達系とTCAサイクル遺伝子のなかに増加傾向を示す遺伝子と減少傾向を示す遺伝子が見られた。一方、ベータ酸化、DNA修復、解糖系酵素、ヒートショックタンパク質、そしてアポトーシス関連遺伝子ではp53をはじめとする一部の遺伝子発現増加を除いて減少していた。AutophagyやNecrosisに関連する遺伝子発現もまた減少していた。結果として、宇宙環境におけるような低線量放射線照射によりNB-1細胞は細胞内酸化ストレスが増加し、少なくとも部分的なアポトーシス関連遺伝子発現変化を減少させ、癌化や神経障害のポテンシャルを増加させるような遺伝子発現変化が認められた。