日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: OC-5
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活性酸素・ROS
線虫C. elegansの新規遺伝子CeOXRによるROS消去と寿命との関係
*浅井 翔太橋口 一成中村 允耶石井 直明秋山(張) 秋梅
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キーワード: CeOXR, 寿命, 酸化ストレス
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抄録
酸化ストレスは活性酸素によって引き起こされる。活性酸素は体内では代謝の副産物として細胞内で絶えず産生しており、体外からの放射線や化学物質などによっても産生される。活性酸素が過剰に産生されると体内の酸化ストレスが増加し、さまざまな障害を引き起こす。また、活性酸素はDNA塩基の酸化を引き起こし、その結果DNAに突然変異が起こる。この突然変異の原因となるDNA損傷が修復されなければ、細胞は老化、死、あるいはがん化する恐れがある。
このため生物には酸化ストレスに対して抵抗性をもつ機構が備わっている。近年ヒトにおいて、OXR1と呼ばれる遺伝子が、G:C→T:Aトランスバージョンを抑制し、過酸化水素による発現誘導を受けるなど、酸化ストレス抵抗性に関わることが見出だされた。しかし現在のところ、このタンパク質が細胞内でどのような機能をもつのか具体的には分かっていない。また、OXR1遺伝子の研究は酵母、ヒト以外の生物ではあまり行われていない。
本研究において、線虫C. elegansに、ヒトOXR1ホモログ(CeOXR)が存在することが分かった。線虫は老化のモデル生物として有用であると考えられている。さらにライフサイクルが短く(20°Cで3日間)、大腸菌のように大量培養が可能で、さらに遺伝学的手法が利用できるなど、様々な利点がある。
本研究では、線虫CeOXR遺伝子の機能を解析することを目的とした。はじめにCeOXRをクローニングし、CC104 mutM mutY欠損大腸菌に導入して相補性試験を行ったところ、G:C→T:Aトランスバージョンの抑制が見られた。次にCC101 mutT欠損大腸菌を用いた相補性試験を行ったところ、A:T→C:Gトランスバージョンも抑えることが分かった。さらにCeOXRを欠損した線虫と野生株(N2)との寿命の違いを比較測定した結果、CeOXR欠損株は野生株に対し、10%の平均寿命の短縮が認められた。
これらのことから我々は、CeOXRは酸化ストレスに対して何らかの防御的役割を果たし、その効果により寿命の延長につながるのではないかと考えている。本研究の進展は、CeOXRの機能解明にとどまらず、老化やがん化のメカニズムの解明につながると考えている。
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© 2009 日本放射線影響学会
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