抄録
【目的】金や白金などの高原子番号物質はX線と強い相互作用を有し、低エネルギーX線照射時には主に光電効果やコンプトン散乱により細胞のDNA損傷を増加させることで生物学的効果を増強すると考えられている。実際に3 μm径の金粒子を用いたX線作用の増強効果も報告されているが、正常細胞に対する毒性や生体への投与方法等で課題がある。そこで我々は、6 nm径の金粒子をポリアミンゲルとポリエチレングリコールで包むことで、細胞のエンドサイトーシスに依存して細胞質内に取り込まれ、効率的な放射線増感効果が期待できる148 nmの径を持つ金粒子含有ナノゲル(GNG)を開発した。本研究では、GNG存在下でのX線照射による細胞死の増強作用およびその機序について検討を行った。
【方法】マウス扁平上皮がん由来SCCVII細胞、ヒト肺腺がん由来A549細胞、ならびにチャイニーズハムスター肺線維芽細胞由来V79細胞に対して、14時間のGNG処置および200 kVのX線照射を行い、コロニーアッセイ法によりGNGの細胞毒性と細胞増殖死の増強作用を検討した。また、SCCVII細胞におけるアポトーシス細胞の割合をPI染色により測定し、透過型電子顕微鏡によりGNGの細胞内局在を評価した。更に、GNGのX線増感作用の機序を調べるため、DNAの二重鎖切断を蛍光免疫染色、ウェスタンブロットならびにパルスフィールド電気泳動法により解析した。
【結果】GNGは細胞毒性による影響が低い範囲の濃度でX線照射による細胞増殖死およびアポトーシスを増強した。更に、X線照射によるDNAの二重鎖切断はGNGの存在下では抑制されるという結果が得られた。GNGはエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ、核内ではなく細胞質内に存在していたことと、GNG存在下でのX線照射により、DNA損傷以外の細胞ストレスにも応答するタンパク質であるJNKの活性化が見られたことから、GNGは核のDNA以外を標的としてX線増感効果を起こしていることが示唆された。