抄録
放射線による発がん影響を観察するモデルマウスの一つとして、腸管腫瘍高発Apcmin/+変異マウスがある。Bcl11bは腸管クリプト内の幹細胞および前駆細胞であるTA細胞に発現し、しかもBcl11bKO/+遺伝子型をApcmin/+マウスに導入すると、発がんが助長される。したがって、Bcl11bKO/+ヘテロ欠損マウスも同様に、発がんへの放射線影響を観察するよいモデルである可能性がある。今回、このモデルを利用し、発がん影響を検討した。生後2週齢のBcl11bKO/+; Apcmin/+マウスに3Gy全身照射し、照射後に16週の腸管で腫瘍数を比較した。非照射に比べ、腫瘍数の増大が見られ、それは統計学的に有意であった。これは放射線発がん感受性をBcl11bKO/+遺伝子型が付与することを示唆する。さらに照射影響を解析する目的で、高線量急性照射(12Gy)を行い、経時的に増殖マーカーであるKi-67染色比較を行った。形態学的な損傷が見られ始める前の照射後24時間では、Bcl11bKO/+マウスの方が明らかに多くのクリプト細胞が強く染色されていた。一方、照射後24時間のTUNEL染色では、死細胞はむしろ減少することがわかった。これらはBcl11bが細胞増殖を抑制する方向に作用する転写調節因子であることの反映と考えられた。次に回復・再生期である照射後4日で同様の観察を行ったところ、Bcl11bKO/+マウスのクリプトでKi-67陽性細胞が多く観察され、形態学的なクリプトの回復・再生期像も強く見られた。これらの結果により、Bcl11bKO/+マウスにおける放射線発がん高感受性は、組織再生が異常に亢進するためだと考えられた。