抄録
損傷部位の乗り越えDNA合成(TLS)率および突然変異率を測定できるヒト細胞と大腸菌とのシャトルベクタープラスミドを作製した。このプラスミドは、1個の損傷塩基を有する15塩基の配列を挿入したlacZ’遺伝子をTLSのマーカーとして持ち、SV40のT抗原遺伝子および複製開始点、コリシンE1複製開始点およびアンピシリン抵抗性遺伝子を持つ。
今回、15塩基配列としてp53遺伝子配列を用い、248番コドン(p53の変異ホットスポット)または249番コドン(コールドスポット)のグアニンにバルキーアダクト(4-アミノビフェニル付加体)を有する2種類のプラスミドを作製し、A群色素性乾皮症細胞(XP2OS(SV))に導入した。48時間後プラスミドを回収してインジケーター大腸菌を形質転換し、α相補性を利用してTLS率を求め、TLSをしたプラスミドのp53遺伝子配列の突然変異を調べた。
TLS率はコドン248では36%、コドン249では77%、TLSしたDNAにおいて突然変異率はコドン248において4%、コドン249において1%であった。A群色素性乾皮症細胞にTLSポリメラーゼの1つであるpolηを過剰発現させると、TLS率はコドン248において16%に減少、コドン249において90%へと上昇した。TLSしたDNAにおいて突然変異率はコドン248において31%へと上昇、コドン249において2%へと減少した。
これらの結果はコドン248のバルキーアダクトにおいては、Polηが誤りやすいTLSポリメラーゼとして働き、コドン249においては通常の複製ポリメラーゼが誤りなく働くことが示唆される。