2022 年 14 巻 1 号 p. 54-70
本研究では,5G・Beyond5Gにおける「電力貸借通信」を提案し,端末の電力負担に考慮した最適端末選択手法の検討を行う.モバイル通信分野では,携帯端末の機能の向上や通信技術の発展によって近年新しいサービスの提供が可能になっている.その一方で,ユーザ目線から見た際にはバッテリの持ちに対する不満が依然として高いことが問題点として挙げられる.この問題に対して,本研究では低消費電力で電力効率の高いDevice-to-Device通信(D2D通信)に注目し,携帯端末間で効果的にD2D通信を利用することで,端末のバッテリ駆動時間を延ばすことを目指す.本方式ではバッテリの駆動時間を延長するために,基地局とは直接通信を行わず,D2D通信を用いて近隣の端末に代わりに基地局との通信を依頼する.これは近隣の端末のバッテリリソースを仮想的に使用させてもらうとも言い換えることができるため,本提案方式を電力貸借方式と名付けている.本研究では,電力を他端末から借りるにあたっての最適端末選択手法を検討し,借りる側のバッテリの減りを抑え駆動時間を伸ばしつつも,貸す側に貸与の上限値を設けることで電力負担を少なくすることを目指した選択手法の開発を行った.また,本方式の有効性を確かめるため,通信時の消費電力を電力を借りる側・貸す側・基地局と通信した時(通常利用)の3つに分けて実験を行い,消費電力やバッテリの減り方について測定結果を用いて分析を行なった.加えて,提案方式を利用した際の貸す側と借りる側の消費電力とバッテリの減り方についても分析を行った.更に,シミュレーション評価により,貸す側の電力貸与の上限値によって,借りる側のバッテリ駆動時間や方式の公平性への影響を検証する.