日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第53回大会
セッションID: PB-20
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B 放射線応答・シグナル伝達
直接照射及び培地上清中のバイスタンダー因子で遅発性長寿命ラジカルが誘発される
*見置 高士菓子野 元郎渡邉 正己熊谷 純
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抄録
放射線のエネルギーを直接又は間接的に受けた細胞におこる生物影響は、その物理・化学・生物学的各作用ステージにおける全ての影響が含まれてくるが、照射細胞の培地上清を未照射細胞(レシピエント細胞)に作用させて発現してくるバイスタンダー現象は、照射細胞が分泌したバイスタンダー因子による影響だけを取り出して見ることができるため、両者の比較は放射線の影響機構を詳細に検討する上で興味深い。我々は、放射線による突然変異やガン化に、細胞内に遅発的に生じる長寿命ラジカル(Slow Releasing Long-Lived Radicals: SRLLRs)が関与している非DNA標的モデルを提唱してきた。直接放射線照射された細胞中には、照射後数時間かけてSRLLRsが生成し、少なくとも20時間はそのレベルが維持された。一方、照射細胞の培地上清をレシピエント細胞に晒すと、レシピエント細胞内のSRLLRsのレベルも上昇した。また、どちらの場合でも点突然変異頻度が有意に増加した。本研究では、直接照射された細胞中と照射された培地上清に晒された細胞中に生成するSRLLRsについて抗酸化剤の作用の違いを検証し、SRLLRsの生成箇所と突然変異との関係について検討したので報告する。 抗酸化剤としてアスコルビン酸(AA: 5 mM)とN-アセチルシステイン(NAC: 5 mM)を用いた。直接照射の場合は、シリアンゴールデンハムスター胎児(SHE)細胞を用い、γ線(4 Gy)照射後20分に抗酸化剤を添加して2時間作用させ、細胞中のSRLLRsをESRで直接測定した。培地上清移動の場合はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を用い、照射細胞(γ線, 1 Gy)の培地上清を照射後24時間後にレシピエント細胞が植え込んであるフラスコに移した。抗酸化剤は培地移動の際に添加し(AA: 1mM; NAC: 5 mM)、24時間作用させた後、レシピエント細胞のSRLLRsをESRで測定した。 直接照射された細胞の場合、AA又はNACを照射後に添加すると共にSRLLRsの増加を抑制した。AAは突然変異も抑制した(Mutat. Res. 421 45 (1998))。NACの類似体であるRibCysも照射後添加で突然変異を抑制すると報告されている(Mutat. Res. 551 (2004))。一方、培地上清移動の場合、AAはSRLLRsの増加を抑制したが、NACは抑制できなかった。培地上清移動によって生じる突然変異も、AAは抑制したがNACは抑制しなかった。AAとNACは共に水溶性で分子量および抗酸化能(水素還元能)も同程度であり、細胞内の拡散に大きな差があるとは思えない。直接照射された細胞では細胞質にSRLLRsが主に生成しているのに対し、レシピエント細胞中ではAAを取り込む機能のある細胞小器官(例:GLUT膜タンパクを持つミトコンドリア)にSRLLRsが生成していると考えると、本実験結果が説明できる。
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© 2010 日本放射線影響学会
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