抄録
染色体転座は、がん細胞や白血病細胞で認められる最も多い遺伝子異常のひとつである。異なる染色体上の2点が染色体転座により融合されることは、遺伝子発現の制御異常や融合遺伝子産物の形成を引き起こし、細胞悪性化に繋がる。悪性リンパ腫やリンパ性白血病では、免疫グロブリン遺伝子やT細胞受容体遺伝子を含む染色体転座が認められるため、これらの遺伝子の生理的な組換え機構が染色体転座形成に関与していることが示唆されている。一方、放射線や抗癌剤などのDNA損傷誘導によるがん治療は、特定の染色体転座をもつ二次がんの発症を誘導することが知られている。しかし、その染色体転座形成の分子機構は不明な点が多い。11q23上のMLL遺伝子が関連する染色体転座は、トポイソメラーゼ阻害剤エトポシドを用いたがん治療後に発症する二次性白血病で最も高頻度に認められる。私たちは、DNA損傷応答因子ATM欠損細胞では、エトポシド処理後にRAD51などのDNA組換え修復関連因子が11q23転座の転座切断点集中領域へ過剰結合することを見出した。このため、ATMは、DNA損傷応答シグナルの伝達とともに、組換え修復関連因子の染色体転座集中領域への結合を制御して染色体転座の形成を抑制している可能性が示唆された。非リンパ性悪性腫瘍における染色体転座形成の分子機構について討論したい。