広島原爆の直後、爆心地から西方約3kmの己斐・高須地区において、核分裂生成物(FP)を含む黒い雨が降ったことはよく知られている。しかしながら、北西方向山間部に降った黒い雨の放射能については、原爆直後に放射線調査が実施されていないこともあって、放射能沈着の実態はいまだに明らかでない。本研究では黒い雨とともに山間部に沈着したFP放射能量とそれにともなう空間ガンマ線量の推定を試みた。まず、1976年に実施された広島市周辺土壌のセシウム137測定データ、本シンポジウムで山本から報告される床下土壌のセシウム137測定データなどから、山間部黒い雨地域における原爆由来のセシウム137初期沈着量を0.5~2.0kBq/m2と見積もった。セシウム137以外のFP組成については、主要な29核種を対象に、セシウム137に対する放射能量比をJNDC FP Libraryを用いて計算し、揮発性核種と難融性核種とのfractionation効果を考慮しながら沈着量を求めた。沈着放射能は沈着地点に留まるという仮定のもとに沈着後2週間分の地上1mでの積算空間ガンマ線量を求めると10~60mGyとなった。