抄録
電離放射線によるゲノム損傷は、初めのダメージの修復が完了したのちにも細胞応答を活性化し続け、遺伝的不安定性や変異頻度の上昇を一定期間にわたって誘導する。この現象は遅発性突然変異と呼ばれており、エピジェネティックな損傷の記憶系と、その下流に位置する変異導入系の活性化の結果起こると考えられている。
分裂酵母Schizosaccharomyces pombeをモデル生物として用いたわれわれの研究から、X線照射は、それによる細胞周期の停止から回復したのち、約10細胞世代にわたって組換え頻度を上昇させることと、組換え修復因子Rad22の遅発的な活性化は遅発性組換えと同程度の期間継続することが明らかになった。ところが、Rad22の遅延的な活性化を制御するメカニズムはいまだに明らかになっていない。
われわれは遅発性組み換えの間Rad22の活性化を制御する因子を探索しており、今までに少なくとも9種のタンパク質がRad22複合体の構成因子であることを明らかにした。その中には、一本鎖DNA結合因子、熱ショックタンパク質、修復因子や、その他のクロマチンやゲノム恒常性に関与している可能性のある因子が含まれていた。発現量の変化が組換え頻度に影響を与えるという指標を用いて、われわれはそれらの中からRad22活性を調節している可能性のある因子を選び出した。それらは遅発性突然変異に重要な役割を担っている可能性のある因子である。