抄録
DNA二重鎖切断(DSB)は放射線によって生じるさまざまなDNA損傷の中で最も重篤であり、その生物作用に密接に関わると考えられている。ヒト含め、真核細胞において、DSBは主として、非相同末端結合(NHEJ)および相同組換え(HR)の2つの機構によって修復される。NHEJにおいては、DSBセンサーであるDNA-PKcs、Ku86、Ku70およびDSBを最終的に結合するDNA ligase IV、XRCC4、XLFが中心的な役割を果たす。しかしながら、タンパク質リン酸化酵素であるDNA-PKcsの基質とリン酸化の意義、上記の修復酵素群がDSB部位において反応装置を形成する過程については不明の部分が多い。前者に関して、我々は以前、XRCC4が生細胞内で放射線照射後にDNA-PKによってリン酸化されることを示した。その後、これまでにDNA-PKによるXRCC4のリン酸化部位を4カ所同定した。また、リン酸化状態特異的抗体を作製し、これら4カ所のリン酸化がいずれも放射線照射後に亢進することを見出した。更に、これらのうち3カ所に変異を加えた場合、放射線感受性の増強が見られた。これらのことから、DNA-PKによるXRCC4のリン酸化がDNA二重鎖切断修復において重要な役割を担うことが示唆された。後者に関して、我々は、界面活性化剤を用いた細胞分画により、損傷クロマチンに結合したXRCC4を検出する方法を確立した。この方法に欠損細胞、阻害剤、siRNAなどを組み合せることにより、XRCC4のDSB部位への動員機構を明らかにすることを試みている。また、クロマチン結合状態にあるXRCC4を単離し、共存する分子をWestern blotting法、質量分析法などで同定することを試みている。今回は、これらの研究の一端を紹介するとともに、癌診断・治療への応用可能性についても議論したい。