抄録
太陽光は、地球における全ての生物のエネルギーの源です。食卓を彩る様々な食物の多くは、太陽光を利用して植物が生み出した自然の実りです。家畜も穀物を餌として成長する事を考えると、我々が口にする全ての食物は太陽光を利用して生み出されたものと言っても過言ではないでしょう。他方、生物は光をエネルギー源にだけ利用しているわけではなく、「ものを視る」事にも利用しています。野球選手は高速で変化するボールを、瞬時に、しかも正確に捉える事ができます。この事は、ヒトを含む多くの生物が「ものを視る」為に極めて精巧なシステムを備えている事を示しています。つまり、太陽光による光情報を正確に捉える事が地球上での生存には必須であった事が判ります。
一方、太陽光は生物に恵みをもたらすのみではありません。含まれる紫外線は我々のゲノムDNAを傷つけます。オーストラリアにはヨーロッパに比べ極めて強い太陽紫外線が降り注いでいますが、この地に移住した白人には皮膚がんが多発する事が知られています。太陽紫外線の脅威を示す実例です。オゾンホールの拡大は、太陽紫外線の脅威が今後更に増大する可能性を示しています。
つまり太陽光は地球上の生物にとって、多大な恩恵を与えくれるエネルギーの宝庫であると同時に、生存を脅かす脅威の発生源でもある、まさに諸刃の剣であるわけです。
本講演では、地球上の生物が太陽光の脅威をどのように克服し、その恩恵を如何に効率よく利用しているかをわかりやすく解説し,進化の過程で築き上げられてきた巧みな生命システムについて考えたいと思います。