日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
新生児・乳児期の長期絶食後における摂食拒否の成因に関する研究
田子 歩佐藤 典子辻 真由美荒井 洋
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2005 年 9 巻 2 号 p. 180-185

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抄録

長期間の絶食を経験した後,機能的には食物の嚥下が可能であるにもかかわらず,長期にわたって摂食を拒否する小児がいる.離乳食の開始には最適期があるという説があり,食物受容の最適期以前に摂食を経験できないことが,その主な原因の一つとして考えられてきた.我々は,その成因と病態をより明らかにするため,長期絶食期間の後,摂食拒否に陥った9例の病歴,臨床所見および治療への反応性を調査した。9例中6例は新生児期から完全に経口摂取を禁止されていた.この6例を対象として,同様に新生児期から長期絶食を経験しながらも離乳食~普通食の完全経口摂取が獲得できた19例の対照群と比較検討した.その結果,摂食拒否群では在胎期間が有意に長かったものの,経口摂取許可修正月齢,絶食期間,絶食中の口腔アプローチの有無に対照群との間で有意差はなかった.一方,消化器・呼吸器合併症および感覚過敏の合併が有意に多かった.この結果は,摂食に関する最適期の存在よりむしろ,消化器,呼吸器合併症およびその治療過程による口腔・咽頭への侵害刺激の蓄積や,発達障害に伴う感覚過敏が摂食拒否の成り立ちにより深く関与していることを示している.個々の症例の臨床的検討からは,絶食中の口腔アプローチの有無は予後に影響する可能性が示唆され,手掌等の脱感作,時間をかけた食物の増量や味覚の幅の拡大,病態把握の援助や療育施設との連携を通じた母親の心理的負担の軽減が症状の改善を促した.摂食拒否の遷延化には母子間の心理的葛藤も関与していたと考えられる.

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© 2005 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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