抄録
放射線によって生じるDNAの化学構造変化は、後の細胞あるいは生物応答としてどのような形で反映されていくのか。またその変化の仕方は線質によってどのように違うのか。「線質が違えば生物応答の仕方も違ってくる」ことは半世紀以上前から分かっているが、なぜ違うのかについて「仮説」は数多存在するものの統一見解は得られていない。たとえば高密度に損傷が生じている、いわゆる「クラスター損傷」部位がその違いの一端を担っていると信じられているが、その実体はほとんど分かっていない。こういった放射線誘発DNA損傷の特徴・線質間の相違を解明するためには、これまでにない新しい技術・研究方法を開発し、活用していく必要があると考えられる。以上の構想を踏まえ、本ワークショップでは、DNA構成分子の電離断面積に関する数理物理化学、放射線によるDNA損傷生成に関する数理生物学、放射線によって生じた水分解ラジカルの時間・空間分布について研究されている各先生方にご講演いただきながら、放射線誘発DNA損傷の真相(深層)について議論していきたい。