抄録
粒子線が生体内に入ると生体中の分子(主として水分子)を電離させ、電子を発生させ、その電子が他の分子と衝突してOH分子のようなラジカル分子を発生させる。この電子やラジカル分子とDNAとの相互作用により、DNA損傷を引き起こすと考えられている。今回は、その他の過程として粒子線との相互作用によって電離した分子が作りだす電場のDNA損傷の影響を調べた。200 keV/uのエネルギーの陽子線とヘリウム線を水に照射させた場合、それぞれ、約0.7 nm、約0.35 nmの間隔で水分子は電離することがわかった。電離した分子は、電荷を持ち、電場を形成する。その電場は、強くなると他の原子や分子を電離させる。そこで、形成された電場によって粒子線の軌道からどれくらい離れたところでDNAの塩基が電離するのか調べた。その結果、ほとんどすべての塩基が電離する距離は陽子線、ヘリウム線の場合、それぞれ、0.5 nm、1 nm程度であることがわかった。これは、ヘリウム線の方が電離した分子の間隔が短いため、合成された電場が強くなるためである。また、束縛エネルギーの低いDNAの塩基の方が電離しやすいこともわかった。