抄録
東日本大震災により発生した福島原発事故は広範囲の放射能汚染を引き起こした。この汚染状況については近々文科省・大学連携調査による詳細な汚染マップが作成されることになっているが、この汚染がどれくらい続くかの予測は非常に難しく実際には時間経を待たなければ正確にはわからないのが現状である。しかし、今後の除染作業や避難指定期間などを検討する上では重要な因子の1つと考えられることから、137Csの生体内動態を調べるとともに今までに報告されているデータを基に福島原発事故汚染地域に棲息する動物を中心とした当初の生態学的半減期の推測を試みた。
【方法】生体内動態1.マウスに1kBq/g体重の137CsCl水を単回経口投与した群、10ならびに100Bq/mlの137CsCl水溶液を8ヶ月間自由摂取させた群において137Csの摂取条件(高濃度急性、低濃度慢性摂取)のちがいによる137Csの経時的体内動態の差異を調べた。2.植物葉の汚染状況の経時的変化を調べ、動物の摂取状態と摂取量の変化を予測した。
生態学的半減期の推測 今までに得られている1960年代の大気圏内核実験ならびに1986年のチェルノブイリ原発事故による日本への放射性降下物に由来する137Csホールボディーカウントの半減期(Uchiyama,M. et al.1996)、ノルウェー(Jonsson,B. et al. 1999)とイギリス(Smith,JT. Et al. 2000)の湖のマス体内の137Cs量の半減期、以前、本学会で報告した1997年から2005年におけるチェルノブイリ汚染地域動物体内の137Cs減少率(Nakajima,H. et al. 2006)などのデータを基にして、今後、新たに放射性物質の広範囲な放出がないという条件で福井原発汚染における当初の生態学的半減期(動物体内)の推測を試みた。
【結果】生態系での初期では葉表面に付着した降下137Csを直接摂取する形で大量の137Csを体内へ取り込んだと考えられ、時間の経過と共に雨などで洗い流された137Csが土壌に浸透し、植物等の根からの吸引により植物体内へ移行したものを摂取していると考えられる。また、137Csの生態学的半減期(動物体内)は、おおよそ1.5年と推測された。