抄録
福島原発事故とチェルノブイリ事故は、敷地周辺20~40km圏内から住民が避難を余儀なくされたということでは、ともに原発で起こりうる最悪の事態である。しかしながら、炉型や事故プロセスの違いにより、放出された放射能の組成や量はかなり異なっている。チェルノブイリの場合は、暴走にともなう爆発により、まず炉心組成に近い放射能放出があり、ついで黒鉛火災にともなう放射能放出が約10日間続いたとされている。敷地外に放出された放射能量は、1986年8月にソ連政府がIAEAに提出した事故報告書によれば、131Iは2.7×1017 Bq、137Csは3.7×1016 Bqとされている。一方、福島事故は、冷却材喪失事故からメルトダウンに至ったもので、格納容器の圧力上昇や水素爆発によって閉じ込めバウンダリーが破壊され揮発性核種の大量放射能放出が生じた。4月12日の原子力安全委の発表によると、福島事故の放出量は、131Iで1.5×1017 Bq、137Csで1.2×1016 Bqとされている。これらの数字を比較すると揮発性核種の放出量は、チェルノブイリが若干多いもののほぼ同じ程度と言ってよいであろう。一方、90Srや95Zrといった不揮発性核種については、チェルノブイリは90Srで8.1×1015 Bq、95Zrで1.4×1017 Bqとされている。福島については、日本政府が6月にIAEAへ提出した報告書によると、90Srは1.4×1014 Bqで、95Zrは1.7×1013 Bqとされ、チェルノブイリのそれぞれ60分の1と8000分の1になっている。本報告では、これらの推定値の不確かさについて議論するとともに、事故発生直後の敷地周辺での放射線状況を比較検討する。