抄録
長崎原爆は上空503mで炸裂した。長崎市は山が多く爆心から南東約2kmには366mと285mの山々がある。これらの山蔭で被爆した人々は、爆心からの距離が同じで山で遮蔽されなかった人たちよりも被ばくした放射線量が少なくがん死亡率も低いと考えられる。
このことを確認するために、被爆距離が2kmから5kmまでの地域についてGISの可視領域解析により爆発点から山で遮蔽された地域の解析を行い、被爆距離2-3kmのフォールアウトで知られる地域を除き遮蔽地域(S2-3)とし、同様に非遮蔽地域のうち、被爆距離2-3kmの地域(U2-3)、3-4kmの地域(U3-4)、4-5kmの地域(U4-5)の5つの地域を選んだ。これらの地域のがん死亡について、性別、被爆時年齢、到達年齢を調整したCoxの比例ハザードモデルにより解析を行った。
1970年1月1日に長崎市に在住していた被爆時年齢30歳未満の37,357人のうち各地域の対象数はU2-3が1663人、S2-3の2341人、U3-4の5062人、U4-5の3313人であった。1970年1月1日から2009年12月31日までのがん死亡(割合)はU2-3が198人(11.9%)であったのに対してS2-3は202人(8.6%)、U3-4で435人(8.6%)、U4-5で267人(8.1%)であった。
U2-3に対するS2-3のがん死亡ハザード比は0.76倍 (95%信頼区間0.63-0.93)と24%低かった。同様にU3-4は0.75倍 (95%信頼区間0.64-0.89)、U4-5は 0.80倍 (95%信頼区間0.67-0.97)であり、S2-3に対するU3-4とU4-5では統計的に有意な差は見られなかった。
このことから2-3kmの山陰で被爆した人のがん死亡のリスクは3km以遠の非遮蔽で被爆した人と同等であると考えられる。